管理人です。
高杉吏麒騎手の騎乗がないまま、4週が過ぎました。この件についてはこれまでも二度書いていますが、状況は今も変わっていません。
変わったのは、ネット上の情報量のほうです。今では、流れている話を数え上げられるほどの数になりました。しかもその一つひとつが、まるで確定した事実であるかのように語られています。
そこで今回は、少し変わった書き方をしてみます。
出回っている話をいったんすべて並べ、それぞれが「どこまで確認できているのか」を整理します。結論を出すためではなく、結論を出せないことをはっきりさせるために。
まず、公式に確認できていること
土台を固めておきます。JRAの発表と主要メディアの報道で確認できるのは、以下だけです。
- 8月6日付で、栗東・藤岡健一厩舎から栗東・フリーへ所属変更。JRAが発表。
- 7月19日を最後に、レース騎乗がない。これで4週連続。
- 騎乗停止などの処分は発表されていない。負傷・体調不良の発表もない。
- 所属変更の理由について、JRAからの説明は一切ない。
- 成績は1年目48勝(最多勝利新人騎手賞)、2年目74勝(全国11位)、3年目は7月19日までに38勝。JRA通算160勝。
確認できるのは、ここまでです。この先は、すべて確認されていません。
よくある誤解:「騎乗停止」ではありません
この件でもっとも多い誤解が、「高杉騎手は騎乗停止処分を受けている」というものです。実際、検索でも「高杉吏麒 騎乗停止」という調べ方が非常に多く見られます。
結論から書きます。高杉騎手は、騎乗停止処分を受けていません。
JRAは騎乗停止などの制裁を科した場合、必ず公式サイトで発表します。高杉騎手自身、今年3月にスマートフォンの不適切使用で2日間の騎乗停止を受けており、そのときはきちんと発表がありました。しかし今回の空白期間について、JRAからの処分の発表は一件もありません。
つまり、乗っていないのは処分によるものではありません。制度のうえでは、いつ騎乗しても問題のない状態です。
では、いつ復帰するのか。これについても予定は公表されていません。フリーの騎手である以上、騎乗依頼を受ければ出馬表に名前が載り、依頼がなければ載りません。復帰の時期を決めるのは処分の満了日ではなく、依頼が来るかどうかです。この点が、騎乗停止との決定的な違いです。
いま流れている話の一覧
では、ネット上ではどんな話が流れているのか。整理すると、大きく9つに分けられます。
| 流れている話 | 主な出所 | 確認状況 |
|---|---|---|
| ①追い切りを無断で欠勤したという話 | 匿名投稿・個人発信 | 未確認 |
| ②飲酒が関係しているという話(時期や年齢に触れるものもある) | 匿名投稿・個人発信 | 未確認 |
| ③厩舎関係者への態度が問題視されたという話 | 匿名投稿・個人発信 | 未確認 |
| ④調教師が一定期間の騎乗自粛を求めたという話 | 元騎手の配信とされるもの | 未確認 |
| ⑤高杉騎手の側から厩舎を出る意向を示したという話 | 同上 | 未確認 |
| ⑥反省の姿勢が見られなかったという話 | アグリゲーター・掲示板 | 未確認 |
| ⑦調教師が馬主に宛てた文書が出回っているという話 | アグリゲーター・掲示板 | 現物は未確認 |
| ⑧その文書に厳しい表現が含まれていたという話 | 同上 | 未確認 |
| ⑨今後の騎乗機会をめぐる働きかけがあったという話 | 同上 | 未確認 |
これに加えて、過去のまったく別の出来事と結びつける話まで流れていますが、これについては根拠と呼べるものが何ひとつ見当たりませんでした。
一覧にしてみると、はっきりすることがあります。確認状況の欄が、すべて「未確認」で埋まっている。
なぜ、これらを事実として書けないのか
理由は三つあります。
ひとつめ。出どころをたどると、必ず途中で行き止まりになります。
「関係者によると」「トレセン関係者の話では」。こうした表現の先に、確かめられる相手が出てきません。誰が見聞きしたことなのか、最後までたどり着けないのです。
ふたつめ。主要な競馬メディアが、一社も報じていません。
これは重要な点だと思います。日刊スポーツもスポーツ報知もサンスポも東スポも、所属変更の事実と騎乗がない状況までは報じています。しかし、理由については一行も書いていません。取材網を持つ各社が、発表から1週間以上、そこに踏み込んでいない。裏が取れていないのか、報じない判断をしたのか。いずれにせよ、個人が先回りしてよい場面ではないでしょう。
みっつめ。「調教師のコメント」と呼ばれているものは、コメントではありません。
ここは特に注意が必要です。⑦⑧で流れているのは、取材に答えた談話ではなく、関係者に宛てた私的な文書とされるものです。仮に本物だったとしても、公表を前提に書かれたものではありません。
そして本物である保証もありません。偽物であれば、それは調教師に対する重大な中傷になります。本物であれば、私信を無断で広めていることになります。どちらに転んでも、引用して広げてよいものではないはずです。
それでも噂が広がってしまう理由
ここまで書くと、噂を広げる人が悪いという話に聞こえるかもしれません。ただ、私はそう単純な話でもないと思っています。
通算160勝の若手が、1か月も出馬表から消えている。処分でも怪我でもない。それなのに、何の説明もない。この状態を4週間も続けられれば、憶測が生まれないほうが不自然です。
空白は、放っておけば必ず何かで埋まります。公式の説明が入らなければ、代わりに入るのは憶測です。今回はその憶測が、9項目にまで膨れ上がりました。
競馬界には、個人の事情に踏み込まないという慣習があります。当事者を守るための配慮でもあり、一概に否定はできません。ただ、沈黙が当事者を守る手段として機能しなくなってきているのも、また事実だと感じます。
今この瞬間も、確認されていない話の中で、複数の実在する人の名前が並べられています。高杉騎手だけでなく、当事者ではない人まで含めて。守られている人が、どこにもいません。
まとめ:公式の発表を待ちましょう
一覧を作ってみて、あらためて思いました。
私たちは、何ひとつ知らないのです。
9つの話のうち、どれが本当でどれが嘘なのか。全部本当かもしれませんし、全部違うかもしれません。一部だけが本当で、しかも肝心なところが抜け落ちているのかもしれない。判断する材料が、私たちの手元にはありません。
だから、待ちましょう。
JRAなり、厩舎なり、高杉騎手本人なり、あるいはきちんと取材をした媒体なり。確かめられる形で何かが出てくるまでは、判断を保留しておく。すっきりしない状態に耐えるのは気持ちの悪いことですが、それが今、いちばん誠実な態度だと思います。
そして何も出てこないまま終わる可能性もあります。それならそれで、私たちが知る必要のなかったことだった、というだけの話です。
高杉騎手は、まだ20歳です。通算160勝という数字は、何があっても消えません。競馬は結果がすべての世界ですが、裏を返せば、結果さえ出せば評価が戻ってくる世界でもあります。
次に彼の名前が出馬表に並ぶ日を、静かに待ちたいと思います。答えを出すのは、9つの噂ではなく、これからの騎乗なのですから。
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