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【序章】 脚本家も書けない、男たちの物語
2025年末、日本中を感動させたドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』。
「日高の馬」という言葉を胸にした様々な人々の姿に、多くの視聴者が涙しました。
しかし、私はあえて言いたいのです。 「現実は、ドラマよりも美しい」と。
今、競馬場でひときわ異彩を放つ一頭の芦毛(あしげ)馬がいます。
『メイショウタバル』
父はあの破天荒なゴールドシップ。その血を受け継ぎ、常識外れの逃げでファンを沸かせる「現役の暴れん坊」です。
ですが、彼の周りには、ただの「個性派ホース」という言葉では片付けられない、あまりにも重く、熱いドラマが乗っています。
- 「日高の夢」を追い続けた一人の馬主。
- かつて愛馬の手綱を奪われた男の決断。
- そして、その想いを全て受け止めた天才騎手。
これは、メイショウタバルという馬を通して描かれる、男たちの「運命」の物語です。
【第1章】 「メイショウ」の親父さんが愛した景色
この物語を語る上で、日本競馬界を語るうえで、絶対に避けて通れない人物がいます。 昨年(2025年)9月、惜しまれつつこの世を去った松本好雄オーナーです。
競馬ファンなら誰もが知る「メイショウ」の冠名。 しかし、彼がなぜこれほどまでに愛されたのか、その真髄を知る人は多くありません。
「日高」へのこだわり
現代の競馬界は、ロイヤルファミリーでも北稜ファームという名前でモデルが出てくる、『社台グループ』を中心とした「エリート生産牧場」の馬が席巻しています。 G1を勝つためには、数億円の良血馬を競り落とすのが近道。それが常識です。
しかし、松本オーナーは違いました。 彼はかつて競馬界を席巻した北海道・日高地方の、家族経営のような小さな牧場の馬を買い続けました。
「人がいて、馬がいて、そしてまた人がいる」 これは彼の座右の銘です。
馬を中心に様々な人が“縁”で繋がっている。という名言です。
どんなに勝ち星から遠ざかっている騎手でも、騎乗依頼が減った騎手でも、自分の馬に乗せ続けました。
だからこそ、彼の周りにはいつも笑顔があり、騎手たちも「このオーナーのために勝ちたい」と心から願ったのです。
そんなオーナーが、日高の老舗・三嶋牧場で見初めたのが、後のメイショウタバルでした。 父ゴールドシップ譲りのやんちゃな目をしたその若駒に、オーナーは自身の「最後の夢」を託したのです。
【第2章】 2006年の古傷、「メイショウサムソン」
時計の針を、今から20年前に戻しましょう。 この物語のもう一人の主人公、石橋守(現調教師)の話です。
当時の石橋守は、いぶし銀のベテラン騎手でした。 決して派手ではありませんが、真面目で実直。そんな彼を、松本オーナーは息子のように可愛がっていました。
そして2006年、二人の間に奇跡が起きます。
「メイショウサムソン」
石橋騎手は、このパートナーと共に「皐月賞」「日本ダービー」を制し、二冠を達成。 表彰式で松本オーナーと石橋騎手が肩を抱き合う姿は、日高のホースマンたちに勇気を与えました。 「俺たちのメイショウが、エリートたちに勝ったんだ!」と。
しかし、その歓喜の直後、残酷な運命が待っていました。 サムソンの、世界最高峰のレース「凱旋門賞」への挑戦が決まった時です。
「世界で勝つために、鞍上を武豊に代える」
それは、断腸の決断でした。 オーナーにとっても苦渋の選択でしたが、勝負の世界は非情です。 世界を知る天才・武豊か、苦楽を共にした石橋守か。 選ばれたのは、武豊でした。
石橋騎手は、文句ひとつ言わず、それを受け入れました。
「俺がオーナーでも豊を乗せる」と幼いころからの盟友を責めることはありませんでした。 しかし、自分の手で育て、共に頂点に立った愛馬を、ライバルに譲り渡す悔しさは決して浅いものではなかったはずです。
【第3章】 調教師・石橋守の信じた盟友
時が流れ、ステッキを置いた石橋守は、調教師へと転身します。 「いつか、サムソンの時以上の馬を育てて、オーナーに恩返しをする」 それが、彼の第二の人生の目標だったと後にコメントしています。
そして出会ったのが、メイショウタバルです。 気性が荒く、制御が難しい。しかし、ツボにハマった時の爆発力は、かつてのサムソンや父ゴールドシップを彷彿とさせました。
彼はこの馬を根気強く育て上げ、ついにG1タイトルを狙える器にまで磨き上げました。 舞台は2025年、グランプリ宝塚記念。 雨が得意なタバルにとって、絶好のチャンスです。
ここで、石橋調教師はひとつの決断を迫られます。 「誰に乗せるか?」
何人もの騎手を乗せてきたが癖のある馬です。乗りこなせる騎手は限られます。 しかし、技術以上に大事なものがありました。 「オーナーのために」という想いを、誰よりも共有できる人間でなくてはならない。
石橋調教師がスマホを取り出し、電話をかけた相手。 それは、幼いころからの盟友、武豊でした。
「豊、空いてるか? 俺の馬に乗ってくれ」
言葉には出さずとも、二人の間には様々な想いがあったはずです。 武豊騎手も、即答で引き受けました。 「守さんが育てた馬で、またオーナーを喜ばせましょう」
そしてここに『松本オーナー』『石橋調教師』『武豊騎手』の3人が揃い、日高の夢、恩師への恩返し、盟友と叶える夢…様々な想いが集まりました。
【第4章】 2025年宝塚記念、涙の逃走劇
そして迎えた決戦の日。 阪神競馬場は、皮肉にも父ゴールドシップがかつて大敗した時のような、重たい雨馬場でした。
ゲートが開いた瞬間、メイショウタバルは飛び出しました。 迷いのない逃げ。 武豊騎手の手綱さばきは、まるで「この馬の全てを知っている」かのように滑らかでした。
1000m通過、先頭。 4コーナー、まだ先頭。 直線、後続のエリート馬たちが必死に追いすがりますが、白い馬体は止まりません。
「そのまま! そのまま行ってくれ!!」
日高の夢、オーナーへの想い、そして二人の男の20年分のドラマを乗せて、メイショウタバルは先頭でゴール板を駆け抜けました。
【終章】3人の最初で最後の口取り式
検量室前。 戻ってきた人馬を迎えたのは、万雷の拍手でした。 武豊騎手が、石橋調教師を見つけ、右手を突き上げました。 そして二人は、言葉少なに固い握手を交わしました。
そして口取り式で松本オーナーと武豊は抱擁を交わしました。
松本オーナー・石橋調教師・武豊並んだ口取り式の映像はずっと忘れないと思います。
それから3ヶ月後の9月。 松本オーナーは静かに息を引き取りました。 しかし、その顔は安らかだったと聞きます。 自分が愛した「人と人の縁」が、最高の形で結実したのを見届けたのですから。
宝塚記念を勝った武豊騎手は、勝利ジョッキーインタビューにてこう答えています。
「人がつないでくれた馬の縁、そして馬がつないでくれた人の縁。この勝利は格別ですね」
【あとがき】 物語は、まだ走っている
ドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』は最終回を迎えましたが、メイショウタバルの物語に終わりはありません。
今も彼は現役です。 ゲートに入るたび、彼は3人の男たちの想いを背負っています。
- 天国で見守るオーナーの笑顔。
- 彼を信じて送り出す石橋調教師の情熱。
- その全てを背中で受け止める武豊騎手の技術。
次走、もしメイショウタバルが先頭でレースを引っ張る姿を見たら、思い出してください。 彼が運んでいるのは、ただの騎手ではありません。 日本の競馬が失ってはいけない「心」そのものなのです。
行け、メイショウタバル。 どこまでも逃げてくれ。 その白い馬体がゴールを駆け抜けるとき、私たちは空を見上げて、オーナーと共に叫ぶだろう。
「やっぱり競馬は、最高だ」と。

正直書いていて言葉が見つからない場面が多くありました。
感動した思いを書きたいけど文章に出来ないってこういうことを言うんだな。と感じました。
メイショウタバルは今後も走ります。一緒に応援しましょう!



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