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1. 栄光の裏側にあった「負のスパイラル」
今から少し昔、2000年代前半のお話です。 当時の日本競馬界は、ある一頭の偉大な種牡馬(お父さん馬)によって、かつてない黄金期を迎えていました。
彼の名は、「サンデーサイレンス」。
ディープインパクトの父としても知られる彼は、遺伝子レベルで他の馬とは桁違いの能力を持っていました。 「走る馬はみんなサンデーの子供」 そんな時代が続き、日本のサラブレッドのレベルは飛躍的に向上しました。
サンデーサイレンスの名馬列伝はコチラ→【日本競馬の歴史】世界最強への逆襲!サンデーサイレンスと「日本総大将」が変えた運命の日
しかし、その栄光の裏で、生産者(牧場)たちは頭を抱えていました。 あまりにもサンデーサイレンスが優秀すぎたため、牧場が「サンデーの血を引くお母さん馬」で溢れかえってしまったのです。
これが、日本競馬界を襲った「血の閉塞(へいそく)」という深刻な問題の始まりでした。
ちょっとした用語集
・インブリード→遠縁に同じ血を持つ近親配合の子ども。
・アウトブリード→父母ともに完全に違う血を持つ子ども。
2. なぜ「同じ血」が増えるとダメなのか?
「強い馬の血が増えるなら、いいことじゃないの?」 そう思うかもしれません。しかし、競馬(ブラッドスポーツ)には「インブリード(近親交配)の壁」が存在します。
同じ血を持つこと自体が悪いことではありません。3代前と4代前に同じ血を持つ血統を奇跡の血量と呼ぶほど、ひいひいおじいちゃんが同じぐらいであれば強い馬が生まれると言われています。
しかし、この時代の日本はサンデーサイレンスの子どもが増えすぎていました。
近すぎる親戚同士で結婚(配合)すると、血が濃くなりすぎてしまい、奇形が生まれたり、体質が弱くなったり、気性が荒くなりすぎたりなど様々なリスクが高まるのです。
- 牧場にいるお母さんは、みんなサンデーサイレンスの娘。
- 活躍している強いお父さん候補も、みんなサンデーサイレンスの息子。
つまり「優秀なお嫁さんはたくさんいるのに、血が近すぎて結婚できる相手がいない!」という、婚活における緊急事態に陥ってしまったのです。
このままでは、日本の馬づくりが行き詰まってしまう…。 そこでホースマンたちは、ある決断を下しました。
3. ミッション:海を渡って「花婿」を探せ!
「国内に相手がいないなら、海外から連れてくればいい」
日本の生産者たちは、サンデーサイレンスの血を一滴も持っていない、なおかつ日本の軽い芝にも対応できる優秀な種牡馬(花婿候補)を探しに、世界中へ飛びました。
◇種牡馬として輸入した馬の一例
- フレンチデピュティ(米国): 圧倒的なパワーを持つダートの星。
- ホワイトマズル(欧州): 凱旋門賞2着の底力とスタミナ。
- ハービンジャー(欧州): 圧倒的な記録で勝ったイギリスの貴公子。
◇海外セールで購入した非サンデー馬の一例(マルガイ)
- グラスワンダー(米国):G1を4勝し父として祖父として血脈を残す。
- クロフネ(米国):その名の通り海外生まれで競馬の常識を全て覆した二刀流。
◇母馬が妊娠した状態で輸入された非サンデー馬の一例(持ち込み馬)
- キングカメハメハ(愛国):日本の競馬界に偉大な血脈を残す一頭。
彼ら「非サンデー系」の馬たちが、サンデーの血に染まった日本競馬に新しい風を吹き込むことになります。
ちょっと用語集
・マルガイ(外国産馬)→海外で生まれたあと輸入した子ども。
・持ち込み馬(国産馬扱い)→お母さん馬が妊娠した状態で日本に来て出産した子ども。
過去には出場出来るレースが違うなど扱いの違いはあったが今は撤廃されて始めている。
4. そして生まれた「結晶」たち
この「サンデー系のお母さん」×「輸入された非サンデー系のお父さん」という配合(アウトブリード)は、劇的な化学反応を起こしました。
サンデーサイレンス特有の「瞬発力」に、海外の種牡馬が持つ「パワー」や「スタミナ」が加わることで、それまでとは違うタイプの強さを持った名馬たちが次々と誕生したのです。
これこそが、新しい血がもたらした成果でした。
- アサクサキングス
- (父ホワイトマズル × 母父サンデーサイレンス)
- 欧州のスタミナを受け継ぎ、日本ダービーと菊花賞で激走しました。
- スクリーンヒーロー
- (父グラスワンダー × 母父サンデーサイレンス)
- 米国系の底力を武器にジャパンカップを制覇。種牡馬としても大成功しました。
- アドマイヤジュピタ
- (父フレンチデピュティ × 母父サンデーサイレンス)
- 父譲りのパワーで、あのメイショウサムソンを破り天皇賞(春)を勝ちました。
- ペルシアンナイト
- (父ハービンジャー × 母父サンデーサイレンス)
- 欧州の重厚さと日本の切れ味を融合させ、マイルCSを制しました。
- エピファネイア
- (父シンボリクリスエス × 母父スペシャルウィーク)
- サンデーの孫娘に、米国生まれの父を配合。圧倒的な強さで菊花賞とジャパンカップを圧勝しました。
彼らの活躍によって、「サンデーの血が濃くなりすぎる問題」は、解決の糸口を見つけました。 しかし、ホースマンたちの心のどこかには、まだこんな思いがあったはずです。
「いつかは、輸入馬に頼るだけでなく、日本で生まれた『非サンデー系』の王者に現れてほしい」
5. 真の「大王」の登場
そんな願いに応えるかのように。
母は遠くアイルランドから輸入され、日本で生まれ、日本で調教され、サンデーサイレンス系をねじ伏せて日本ダービーを勝った一頭の馬が現れます。
サンデー系牝馬にとって「最高のパートナー」となり、その後の日本競馬を10年以上支え続けることになります。
その馬の名は、「キングカメハメハ」。
次回は、この「血の閉塞」を完全に打ち破り、日本競馬の新たな扉を開いた偉大なる大王の物語をお届けします。
次の記事→【名馬列伝】キングカメハメハ 日本を変えた真の「大王」が刻んだ伝説と、受け継がれる血の物語



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